Linuxを導入しましょう (Manjaro Linux, 2019/8/30版)

注意

この記事は2019年8月に執筆されたものです。

ウェブサイトの構成、インストーラの見た目、メニューの内容、名称などは随時変更されています。 また、Manjaro Linux以外のディストリビューションをインストールする場合は適切に読み替える必要があります。

Linuxのインストール作業は、ミスによってデータを失う可能性があるものです。あなたの責任において、焦らず、慎重に進めてください。

内容量は多いですが、ひとつひとつのステップを確認しながら確実に進めればゴールにたどり着けるはずです。 ただし、一度は全体に目を通すようにしてください。後ろの方に重要な注意点が記載されている場合もあります。

実際のところ、インストール及びセットアップに関しては、知識と経験の蓄積がかなり必要で、その蓄積によって洗練され、状況によって何をすべきかを判断するものです。 しかしながら実際のところ、これからはじめてインストールしようという初心者がそれを知ることはできません。

ここでは、「なぜ」や、「何を意味するのか」といった解決はほとんど抜きにして、インストールからセットアップまでの最適化の進んだメソッドをそのままご紹介します。

前提

この記事では、比較的モダンなUEFIシステムのAMD64アーキテクチャコンピュータ(Intel、またはAMDの64ビットプロセッサ)に対してインストールすることを想定しています。

BIOSシステムにインストールする場合はBIOSシステム向けの知識を参照してください。

さらに、この記事ではディスク全域に渡ってLinuxシステムで置き換えることを想定しています。 これを実現するためには

のいずれかである必要があります。 なお、空きのディスクはUSB接続でも可能ですし、USB3接続であれば実用的な速度で動作しますが、現実的には邪魔なのでお勧めできません。

ひとつのディスクでWindowsと共存させるデュアルブートを行う場合はかなりハードルが上がります。各事項について調べながら行うことになるでしょう。 デュアルブートについて説明すると複雑になるため、ここではデュアルブート向けの知識として簡単に述べています。

#事前準備

用意する必要があるもの

Manjaro Linuxを入手する

入手とエディションの選択 まずはManjaroの公式サイトに行き、 “Try Manjaro” をクリックしてダウンロードページに進みます。

Manjaro Linuxの公式ページからダウンロードへ

そしてエディションを選択します。

Officialのエディション

の記載がありますが、Architectは自分でどのような構成でインストールするかを選択する上級者向けエディションですので、通常はそれ以外を選択します。

“Community”の項目には有志が作成したエディションがラインナップされています。

Communityのエディション

はいずれも特殊なものですので、通常は

から選択します。

英語が苦手な方もいらっしゃるでしょうから、それぞれ説明文を読むと

Xfce
For people who want a reliable and fast desktop (信頼性があって速いデスクトップが欲しい人向け)
KDE
Built-in interface to easily access and install themes, widgets, etc. While very user-friendly and certainly flashy, is also quite resource heavy. (簡単にテーマやウィジットなどをインストールする機能が組み込まれている。とてもユーザーフレンドリーで、派手であると同時に、とても重い)
GNOME
For people who want a very modern and simple desktop (とても現代的で単純なデスクトップが欲しい人向け)
MATE
For people who look for a traditional experience (伝統的な使い勝手を望む人向け)
Cinnamon
For people who look for a traditional desktop and modern technology (伝統的なデスクトップと最新テクノロジーを望む人向け)
Budgie
For people who want a simple and elegant desktop (単純で華麗なデスクトップが欲しい人向け)

となっています。

各エディションは単にそのデスクトップが採用されているだけでなく、そのデスクトップの考え方に適したアプリケーションを導入していたり、そのデスクトップをManjaroなりに使いやすいようにカスタマイズしていたりします。

“Download” をクリックすると次のように出ます。

Take me Download

英語が得意であれば読むのもよいでしょう。必要なければ”take me Download”をクリックします。

エディションとデスクトップの選び方

ここで、執筆時点でのエディションに対する印象を述べていきます。

XFce

ManjaroとしてはXFceを中心に据えているため、もっとも安定したエディションだと言えそうです。 導入されているアプリも軽量なものが多く、ソフトウェアを導入するベースとしても扱いやすい仕様です。

一方、「欲しいソフトウェアはインストールする」という前提が必要かもしれません。 XFceが最適なデスクトップであるかどうかの疑問だけでなく、パワフルなソフトウェアが欲しい場合は別途インストールすることになる場合が多いからです。

Manjaroは積極的に新バージョンであるXFce4 Gtk3の導入を行ってきましたが、6年ぶりのアップデートによりXFce4 4.14となって使い勝手は改善しました。 XFce伝統のMacっぽい独特なデスクトップではなく、Whiskerメニューを用いたWindowsっぽい見た目にチューニングされています。

KDE

KDEを使いたい場合にKDEエディションを選択するべきかどうかは一考の余地があります。

選択されているコンポーネントはKDEとしてはごく標準的な構成であり、Manjaroでカスタマイズされている部分もあまりありません。 そのため、「KDEエディションを選択しないとKDEにしづらい」ということはあまりありません。 一方、標準のディスプレイマネージャであるSDDMが非常に重いなど、KDEエディションの構成はKDEを使うにしても最適でないように感じられます。

そのため個人的には、XFceエディションを選択した上で

sudo pacman -S plasma kf5 kde-applications

というコマンドを打ってKDE Plasmaをインストールし、ログインメニュー(XFceの場合はLightDM)の設定ボタンからPlasmaでログインするのが、より安定した運用であるように思われます。

GNOME

GNOMEはGNOMEのコンポーネントが導入されます。 Manjaroのカスタマイズ度合いは小さいですが、調整が必要なことが多いGNOMEコンポーネントがしっかりと入った状態になるのは良いことです。

GNOMEエディションをベースに、GNOMEと親和性の低いデスクトップ(XFce, KDE, Deepin’)をインストールするのはあまりお勧めできません。標準設定とかち合ってしまったりします。

MATE

コミュニティのMATEエディションは調整度合いが大きく、通常の「GNOME2だ!」というMATEではなく、「Windows XPなどのWindowsのようなオーソドックスな操作感」を持つデスクトップに調整されています。

もし、今からLinuxを使いはじめる人がMATEを選ぶのなら、このエディションを選ぶのが良いでしょう。 しっかりと調整されるため使い勝手も良好です。

Cinnamon

Cinnamonエディションに関しては調整よりもアプリの選択のほうが重要です。

Cinnamonはフルコンポーネントが用意できておらず、一部をGNOMEに頼っています。 そのため、GNOME+Cinnamonという構成は親和性が高く、一般的です。

しかし、Manjaro CinnamonエディションのCinnamonは「できるだけGNOMEに依存しないように」調整されています。1

そのため、通常感じる以上にGNOMEと使い勝手に差があります。 これは好みの問題であり、判断材料としては「Windows 8やWindows 10がWindows 7よりよくなったと思っているのならGNOMEベース、前の考え方のほうがよかったと思うならCinnamonエディション」というような考え方ができます。

GNOMEベースにする場合、

sudo pacman -S cinnamon

というコマンドでCinnamonを追加インストールします。 GNOMEのない環境からは最低限

sudo pacman -S cinnamon gnome-terminal gnome-screenshot

とする必要があります。

Budgie

BudgieはGNOMEベースのデスクトップ環境であり、基本的な考え方はGNOMEに近い、「操作項目が少なくて設定も最小限しかできない」という方向になっています。 デザイン性重視なのですが、「子供向け」という側面もあります。

Budgieを選択することは慎重に考えるべきです。 Budgieを開発するSolusプロジェクトは少人数であり、 現在開発は停滞しています 。 つまり、 Budgieの将来性が疑問視されています

Budgieを使用したいのであればBudgieエディションを選択するのが良いでしょう。 Budgieを追加インストールする場合はGNOMEベースが適しています。

Windowsでの作業

ではお好みのエディション(ここでは無難にXFce)をダウンロードしたら、これをDVDにします。 DVDに記録できるドライブが必要で、ない場合は別途用意する必要があります。

ダウンロードしたISOファイルは、そのままDVDにしたり、USBメモリーにインストールすることができるものです。

DVDに書き込む場合、ISOファイルの右クリックメニューに「ディスクイメージの書き込み」という項目があり、これによって空のDVD-Rメディアへの書き込みを行うことができます。

USBメモリを使用する場合はDD for Windowsを使用すると良いでしょう。 USBメモリを挿した状態で、「ディスク選択」で 慎重に USBメモリを選択し、「ファイル選択」でISOファイルを選び、「書込」によって書き込みを行います。

また、調べる必要があることは予め調べておきます。 もちろん、スマートフォンや他のコンピュータがあるなら、省略しても構いません。

これによってメディアの準備ができたら、フルシャットダウンを行います。 Shiftキーを押しっぱなしにしてシャットダウンを行ってください。

Windowsディスクと交換する形でインストール対象ディスクを使用する場合は、シャットダウン後ディスクを交換します。

UEFIメニューキーの確認

システムを起動しようとする 前に (電源投入直後に) 特定のキーを押すことでUEFIメニューに入ることができるようになっています。 ここで必要なのは、「セットアップキー」と「ブートデバイス選択キー」です。

これは、ハードウェアによって異なります。あなたの使用しているコンピュータ、またはマザーボード、ファームウェアのメーカーや型番を検索し、調べてください。

私が知る限りでは次のようになっています。

メーカー等 セットアップ デバイス選択
Lenovo F1 F12
hp F10 F9
DELL F2 F12
富士通 F2 F12
NEC F2
Panasonic F2/DEL
ASRock製マザーボード F2 F11
ASUSマザーボード DEL F8
MSI製マザーボード DEL F11
Gigabyte製マザーボード DEL F12

例外もありますから注意してください。

ちなみに、「連打する」と言われることが多いですが、 “Press key” なので「押し下げる」が正しく、ある程度押しっぱなしにします。 「ぽんっ、ぎゅー、ぽんっ、ぎゅー」というリズムのほうが入りやすいです。

UEFIでの作業

電源を投入したら、セットアップキーを押してUEFIメニューに入ります。

UEFIセットアップ内での操作方法はメーカーによって異なります。 画面の指示に従ってください。Enableは有効、Disableで無効です。

最後に「保存して再起動」(Save settings and reboot)するのを忘れないでください。 だいたい、この場合の確定もEnterだとキャンセルして再起動で、F10で確定して再起動だったりします。

ここでは以下の作業をします。

Secure bootのオフ

“Boot”もしくは”Security”関係の箇所にあるのが一般的です。

“UEFI”という項目の中にあることもあります。

Fast bootのオフ

“Boot”もしくは”Performance”関係の箇所にあるのが一般的です。

“UEFI”、あるいは”Windows”という項目の中にあることもあります。

それ以外

それ以外が必要になることはかなり稀です。 私が作業時に気にすることが多いのは次の項目です。

ブートデバイス関係の項目がおかしくなることがあり、起動しなくなったりすると、その周辺をいじることもあります。

インストール作業

Manjaro Linuxの起動

DVDメディア、あるいはUSBメモリーを挿入し、デバイス選択メニューから適切なものを選択してください。 UEFIとBIOS(Legacy)のミックスモードになっている場合は両方がメニューに載ることになります。 ここではUEFIで起動すべきですが、次をヒントにしてください。

Manjaro Liveのブート画面が立ち上がったら次のようにします。

tz
どう設定してもズレるので、UTCのままで大丈夫です。
keytable
日本語キーボードならjpにしましょう。USキーボードの場合はusのままで大丈夫です。
lang
日本語を選択します。なお、選択後はja_JPという表示になります。
driver
基本的にはfreeです。Nvidiaの比較的新しいビデオカードを使用している場合だけnon-freeにしましょう。

これらを選択し終えたらBoot: ...を選択します。

driverについてもう少し補足すると、まずIntel(Intel CPUを使用していて、別途ビデオカードを使用していない場合)やAMD(AMD CPUを使用していて、別途ビデオカードを使用していない場合、あるいはRadeon, FireProといったAMD製ビデオカードを使用している場合)はfreeドライバ以外の選択肢はないと考えて良いでしょう。

厳密には古めのAMDビデオカードを使用している場合、non-freeを選択する余地もあるのですが、AMDのnon-freeドライバは安定性が低いため勧められません。

一方、Nvidiaのビデオカード(GeForceシリーズやQuadroシリーズ)を使用している場合は、Nvidiaが提供するnon-freeドライバの性能がよく、こちらのほうが推奨されます。

ただし、freeドライバに選択の余地がないわけではありません。Nvidiaでも古めのもの(現時点では、Kepler、あるいはMaxwell世代まで、GeForceで言うと700シリーズまで)に関してはnon-freeドライバでうまく動かないことがあり、freeドライバのほうが良いかもしれません。 また、freeドライバのほうが安定はしているので、性能よりも安定を取るのであればfreeドライバという選択肢もあります。

インストーラの使用

Calamaresの起動

Manjaro HelloからInstaller(Calamares)を起動

起動するとManjaro Helloが起動します。 「インストーラを起動」でCalamaresを起動しましょう。 少し間があるので、待ちましょう。

言語の選択

言語を選択

日本語で起動していれば、最初から「日本語」になっているはずです。

タイムゾーンの選択

タイムゾーンを設定

タイムゾーンをAsia/Tokyoにします。 日本語にしていれば初期値がそうなっているはずです。

もしあなたが日本に住んでいない場合は適切な値を設定してください。

キーボードの選択

キーマップを指定

これも起動時の指定が正しければ正しい設定になっているはずです。 テキストボックスで確認してください。ここで日本語を打つことはできませんが、記号などを打つことで確かめられます。

パーティショニング

インストール方法を選択

まず、「ストレージデバイスを選択」から、 確実にインストールしようとしているディスクであることを確認し、選択します。

そのディスクを全面的に使用する場合は「ディスクの消去」を選択します。 ここではその状態で進めることを想定しています。

デュアルブートをする場合、デュアルブート向けの知識に従って事前にパーティションを縮小しているのであれば「パーティションの置き換え」を選択します。あるいは、確認はしていませんが、空きスペースにインストールするようなオプションが表示されるかもしれません。

パーティションを縮小していない場合、「共存してインストール」がWindowsパーティションの縮小を含む作業を行います。 こちらのほうが作業的には簡単です。ただし、Windowsのファイルを壊す可能性は、Windows上で操作したほうが低いです。

ディスクを消去してインストール

「ディスクの消去」を選択した状態で選ぶものは2つです。

ひとつはスワップの利用です。これは、メモリが足りない場合にディスクを使用して補います。 スワップを使用する場合はハイバネートするかどうかの選択もあります。ハイバネートは作業状態を保存して電源を切り、次回起動時に作業状態に復帰できるようにするものです。ハイバネートしたい場合は必ずスワップを使用する必要があります。

ディスクの暗号化は、ディスクの全域に渡ってLUKSという機能を使用して暗号化を施します。 これは、コンピュータやディスクが盗まれた場合などにデータが流出することを防ぎます。

BIOSの場合は追加の設定項目があります。BIOSシステム向けの知識を確認してください。

アカウント設定

アカウント情報の入力

ここは少々注意点が多めです。

名前は基本的にフルネームを記入します。 別に本名を入れなければならないということもありません。わかりやすい名前にすると選択時に識別しやすいというだけです。

ログインの際に使用する名前というのかアカウント名になります。 日本語を使ってはいけません(この時点では日本語打てませんが)。また、スペースを入れてはいけません。

素直に小文字アルファベットと数字だけで構成することを強く推奨します。

コンピュータの名前はネットワークから識別されるホスト名になります。 小文字アルファベット、数字と、間に挟まれたハイフンだけで構成しましょう。ハイフンは必須ではありません。

アカウントのパスワードは

ものにしてください。記号も自由に使えますし、大文字小文字も区別されます。

「パスワードを尋ねずに自動的にログインする」は、電源を投入したら、ディスクが暗号化されていない限り、パスワードなどを知らなくても使用できる状態になることを意味します。普通は無効にします。

管理者アカウントと同じパスワードにするのはやめたほうが良いでしょう。

管理者アカウントのパスワードは 忘れても大して困らないので徹底的に強固なものにしてください。

忘れてしまった場合、ユーザーとしてログインし、端末上で

sudo passwd

とすればパスワードを再設定できますし、必要ならユーザーが管理者権限を獲得する方法もいくつかあります。 例えば「管理者シェル」が必要な場合は

sudo bash -l

でOKです。

いざ、インストール

最後の確認

「要約」は最後の確認です。間違いがないか、特に インストールしようとしているディスクが間違っていないかをよくよく確認し 、「インストール」をクリックすればインストールがはじまります。

インストールが完了したら再起動し、ブートデバイス選択から選べるようになっているでしょう。 もちろん、場合によってはデフォルトでManjaroが起動されるようになっているかもしれません。

インストールできたのに起動できない場合について

例えばDELLの古いモデルなど、稀に「インストール作業は普通にできるのに、インストールすると起動しない」というものがあることを把握しています。

この問題は複雑で、ブートローダーの再インストールなどでは解決しないことを知っていますが、その現物が手元にあるわけではないので、どうすべきと言うことができません。 ただ、openSUSEはこうしたモデルに対して問題なくインストールできる場合が多いということを把握しています。

インストール後の作業

タイムゾーン設定

Linuxの場合、タイムゾーンという概念があり、UTC(世界標準時)との関係で把握しています。 そのため、時計はUTCで保持しており、それを変換しています。

一方、Windowsでは標準でタイムゾーンの概念がなく、時計は現地時間であるという扱いになっています。

このため、そのコンピュータで(デュアルブートでなくとも)WindowsとLinuxを起動すると、時計がズレてしまいます。

方法はふたつで、ひとつはLinuxを現地時間にする方法、もうひとつはWindowsをタイムゾーン対応にする方法です。

本筋としてはUTCに揃えるべきであり、Windowsを修正すべきです。 日本はサマータイムがないため常に9時間ズレであり、あまり問題はないように見えますが、サマータイムがある地域では、タイムゾーンの概念があれば「今日からサマータイムなのでタイムゾーンが切り替わった」で済むところ、ローカルタイムだとサマータイムが開始されると同時に時計をずらすという作業が必要になります。 これは、目覚まし時計のセットの問題と同じことがおきます。

しかし、あくまでWindowsを中心に考えるのなら現地時間で揃えても良いでしょう。

WindowsをUTCで動作させるには次のようなファイルを.regという拡張子で作成します。

Windows Registry Editor Version 5.00

[HKEY_LOCAL_MACHINE\SYSTEM\CurrentControlSet\Control\TimeZoneInformation]
     "RealTimeIsUniversal"=dword:00000001

あとはWindows上でダブルクリックして実行するだけです。

Manjaroを現地時間にするには、「端末」(ターミナル)を起動し、次のようにコマンドを打ちます。

sudo timedatectl set-local-rtc true

このコマンドはManjaro Linux (Arch Linux)固有です。

アップデート

ここからはLinux上での作業です。まずは最新の状態にしましょう。

XFceのメニューから「ターミナルエミュレーター」を選択し、次のようにコマンドを打ちます。

sudo pacman -Syu

あるいは、「ソフトウェアの追加と削除」を選択し、「アップデート」を選んでも構いません。「適用」をクリックでアップデートできます。

アップデート後は再起動すべきですが、今回の場合日本語を入力する設定まで終わらせてからで良いでしょう。

日本語の表示

Manjaroはユニバーサルフォントが導入されており、一応日本語は最初から表示されます。 しかし、ユニバーサルフォントは中国語が優先なので、漢字が中国語になってしまいますし、美しくもありません。

とりあえず日本語フォントを導入しましょう。「ソフトウェアの追加と削除」でパッケージを検索してインストールします。 Manjaroのコミュニティパッケージには次のようなフォントが用意されています。

パッケージ名 説明
adobe-source-han-san-jp 源ノ角ゴシック。Adobeが制作した美しいゴシック体(プロポーショナル)です。
adobe-source-han-serif-jp 源ノ明朝。Adobeが制作した美しい明朝体(プロポーショナル)です。
otf-ipafont IPAフォント一式。IPAが制作した(納入元はタイプバンク)ゴシック体、明朝体のフォントで、プロポーショナルと等幅を揃え、日本語文書の制作に適しています。オフィスソフトを扱う場合は入れておいたほうが良いでしょう。
ttf-hanazono 花園明朝。フォントの自動生成技術を用いた明朝体で、極めて多くの文字の表示を可能にしますが、一般的には必要ありません。
ttf-sazanami さざなみフォント。昔Linuxで使われていたゴシック体と明朝体で、あまりデザインはよくありません。昔のLinuxで使われていたソフトウェアや文書を扱う場合にインストールします。

一般的にはSource Han Sans JP及びSource Han Serif JPをインストールしておけばとりあえず困らないでしょう。念の為にIPAフォントもインストールしておけばバッチリです。

必要に応じて、デスクトップの設定メニューからフォントの設定もしておきましょう。XFceの場合は、メニューから「設定マネージャ」→「外観」→「フォント」です。

日本語の入力

日本語の入力には

の2つが必要ですが、Manjaroはどちらもインストールされていません。

IMEには通常、Fcitx(ファイティックス)を使用します。 さらにFcitxでアプリケーションに入力するためのアダプタも必要になりますが、これらはfcitx-imというグループでまとめてインストールできます。 もしくは、iBusを使用する方法もありますが、それについてはここでは触れません。

Fcitxで使用する変換エンジンは、

があります。

入力効率が最も良いのはMozcで、Anthyと比べるとlibkkcの方が快適であると見られています。Anthyは開発が止まって久しく、もう先はあまり長くないでしょう。 SKKは完全に独自の世界観です。

なお、libkkcを使用する場合は、skk-jisyoもインストールしたほうが快適です。

ちなみに、私はAURパッケージとして、Mozcの強化版のfcitx-mozc-neologd-utをメンテナンスしています。

さらに、このままだとFcitxの設定ができないので、設定ツールをインストールします。 通常の設定ツールはfcitx-configtoolですが、KDEを使用している場合はkcm-fcitxがKDEに統合された設定ツールです。

このインストールでソフトウェアは揃いますが、入力にFcitxを使用するように指定しなければなりません。

「ホーム」ディレクトリ上に.xprofileというファイルを作成し、ここに次のように記載します。 作成と編集を行うためのコマンドとしては

mousepad ~/.xprofile

でも構いません。あるいは、Mousepadをいきなり起動して、保存先を選択しても構いません。

export GTK_IM_MODULE=fcitx
export GTK2_IM_MODULE=fcitx
export GTK3_IM_MODULE=fcitx
export QT_IM_MODULE=fcitx
export XMODIFIERS="@im=fcitx"
export DefaultIMModule=fcitx

これでログインし直せば有効になりますが、アップデート後再起動していないなら、ここで再起動するのが良いでしょう。

入れておいたほうがいいソフトウェア

これで一応使える状態になったはずですが、実用的にはもう少し入れておいたほうが良いものがあります。

Trizen

パッケージ名はtrizenです。

Arch Linuxには、公式にはサポートされていないものの、有志によって提供されるAURというものがあり、これによってより多くのソフトウェアを扱うことができるようになります。

Manjaroの「ソフトウェアの追加と削除」(ソフトウェア名 “Pamac” あるいは “Octpi”)はAURを扱うことができますが、pacmanコマンドは扱うことができません。

TrizenはAURのパッケージを扱うことができるコマンドで、コマンドを使ってパッケージを操作したい人はインストールしておいたほうが良いでしょう。

Leafpad

Leafpad(パッケージ名 leafpad)は「メモ帳」タイプのテキストエディタです。

XFce4に付属する “Mousepad” は、軽量ながらもプログラミングにも使えるタイプですが、Leafpadはあくまでテキストを書くためにあります。

これをインストールすべき最大の利用は、日本語に対する対応の強さです。 Windowsでは以前として日本語の文書にMSCP932(通称Shift JIS)というものを使いますし、Linuxとは改行の表し方が違います。このため、Windowsで作られた日本語のテキストファイルがすんなり開けません。

LeafpadはこうしたWindowsで作られた日本語のテキストファイルを開くのに適しています。

梅フォント

梅フォントはパッケージ名 ttf-ume としてAURに存在します。

梅フォントは決して美しいわけではありませんが、MSフォントファミリー(MSゴシック, MS Pゴシック, MS明朝, MS P明朝)と「メトリック互換」というサイズが同じフォントになっており、MSフォントファミリーを前提にした文書で表示が崩れません。

Cica

Cica (AUR, パッケージ名 ttf-cica)は日本語のコーディングフォントです。 日本語と英語だけでなく、シンボルフォントを含め非常に幅広い文字をカバーします。

「等幅フォント(モノスペースフォント)」を設定する場面で、Cicaを設定しておけば、 まず問題が起きないので安心して使うことができます。

また、Gedit, Mousepad, Gnome Terminalといったソフトウェアで、モノスペースフォントをCicaに設定しているにも関わらず表示がおかしい場合、「システムの固定フォントを使用する」を外し、直接Cicaを指定することが解決します。

MPV

MPV (パッケージ名 mpv)はシンプルで強力な動画プレイヤーです。 キーボードで動画の再生をコントロールすることができます。

コントロールが表示されないので、動画ファイルを開くデフォルトのアプリに設定しておくと便利です。

操作方法はman mpvとコマンドを打てば、英語ではありますがマニュアルを読むことができます。

manpageの終了方法はqキーを押すことです。

unzip-iconv

AURパッケージですが、Windowsで作られた日本語ファイル名を含む一般的なZIPアーカイブ(ファイル名がMS-CP932になっているもの)を展開することができます。

多くの場合

unzip -O sjis archive.zip

で行けるでしょうが、場合によっては

unzip -I sjis archive.zip

である必要があります。

GNOME/Cinnamonで使われるアーカイバであるFile Rollerで日本語ファイル名を含むZIPを展開するには、AURパッケージのfile-roller-jaを使いますが、こちらはバージョン的にいささか遅れ気味になっているのでやめておいたほうがいいかもしれません。

日本語manpage

AURパッケージman-pages-jamanコマンドを打ったときに表示されるマニュアルの日本語訳バージョンです。 日本語で見ることができるマニュアルが増えます。

NKF

AURパッケージnkfはテキストファイルの形式を変換します。

多くの日本語テキストファイルでは深く考えずに

nkf -w -Lu -O linux windows.txt

のようにすればwindows.txtというWindowsのテキストファイルをLinuxに適したlinuxというテキストファイルにすることができます。

逆にLinuxのテキストファイルlinuxをWindowsのテキストファイルwindows.txtにするには次のようにします。

nkf -s -Lw -O windows.txt linux

Shift JISで表現できないUnicodeなテキストを使っている場合は、-sの代わりに-w16L-w8を使うと良いでしょう。 最新のWidnows 10をターゲットにするのであれば-wが良いかもしれません。

その他

ブラウザ

ウェブブラウザはFirefoxとChromiumがコミュニティパッケージ, Google Chrome, Opera, VivaldiはAURパッケージです。

メールソフト

メールソフトはThunderbirdが標準で入っている場合が多いですが、Sylpheed, あるいはClaws Mailが使いやすいでしょう。 また、Trojitaは軽量でシンプルなメールソフトです。

EvolutionはOutlook的なソフトウェアであり、KDEの場合はKMailが搭載されています。

デュアルブート向けの知識

デュアルブートにおいて詳細な説明はしませんが、以下の点を留意すると良いでしょう。

これは、現在稼働しているWindowsシステムをデータごと失う可能性があります。 確実性を考えると、事前にターゲットディスクのディスク容量を超える空き容量を持つUSBディスクを用意しておき、Manjaroのライブブート状態でファイルマネージャからこれを開きます。 そして、右クリックの “Open Terminal in here” (ここでTerminalを開く)から端末を開きます。

次に

sudo parted -l

としてターゲットディスクを確認します。 モデル名と容量から判断し、/dev/なんちゃらとなっている部分を覚えておきます。 例えばそれが/dev/sdaだとするならば、

dd if=/dev/sda of=windows_disk.img bs=4M

とすることで、ディスクの完全なバックアップをファイルにすることができます。 これは非常に時間がかかります。プロンプト($マーク)が戻ってくるのを待ってください。

さらに、これが完了してもすぐに取り外したりしてはいけません。 まず

sync

とした上で、プロンプトの戻りを待ち、さらに時間を置きます。 アクセスインジケータのあるUSBディスクなら、アクセスインジケータが全く点灯しなくなるのを待つのが良いでしょう。

もし失敗して戻す場合は、ifofを逆にするだけです。 このとき、ターゲットディスクの名前の確認を怠らないでください。

なお、SSDについてはデフラグは必要ではないかもしれません。

BIOSシステム向けの知識

BIOSシステムにおいては、デュアルブート時にWindowsシステムを破壊的に変更します。 元に戻すことはできますが (「Linux デュアルブート 戻す」あたりで検索すると良いでしょう)、結構大変な作業です。

また、BIOSシステムの場合、古めのコンピュータということになりますから、Secure BootやFast Bootに関する項目がないかもしれません。この場合、恐らく問題はありませんが、場合によってはどうしようもないこともあります。

また、インストール時のディスクに関する設定時に「ブートローダの場所」という選択肢が追加されます。 ディスクを完全にLinuxで専有する場合は、インストールしようとするディスクのマスターブートレコードで問題ありません。

BIOSシステムでデュアルブートにしようとする場合、マスターブートレコードに対してインストールすると Windowsのブートローダーを上書きして インストールすることになります。 ほとんどの場合、問題はありませんし、戻すこともできますが、トラブル時の対処は少々高度なものになります。 また、ブートできない状態に陥った場合にWindowsを起動するために難しい工夫が必要になるという問題もあります。

パーティションに対してインストールした場合は、Windows側でパーティションのブートローダーを呼び出す設定を追加する必要があります。 これも少々難しく、お勧めはしづらいものです。

Manjaro Linuxにおいてはそれ以外に特別気にするべきことはありません。

ちょい足しテクニック

Cinnamonを導入する

Cinnamonをインストールするには、次のパッケージをインストールします。

コマンドでは次のようにします。

sudo pacman -S cinnamon gnome-terminal gnome-screenshot

Cinnamonの「端末」とスクリーンショット機能はGNOMEに依存していますが、Cinnamonのインストール時に含まれないので明示します。

GNOMEアプリケーションを導入するかどうかも検討する必要があります。 アプリケーションはXFceで使っているものをそのまま使っても良いのですが、軽量指向のXFceよりも本格的なアプリケーションが欲しい場合もあるでしょう。

GNOMEに抵抗がないのであれば、GNOMEそのものをインストールしてしまうのも手です。 これは 非常に多くのソフトウェアがインストールされます。

sudo pacman -S gnome gnome-extra

あまりGNOMEを使いたくないのであれば、x-appsグループをインストールすると良いでしょう。 x-appsには次のものが含まれています。

しかし、x-appsをインストールする場合でも、PDFを印刷するのであればEvinceをインストールしたほうがいいかもしれません。 EvinceはPDFの閲覧、印刷にとても優れています。

XFceの場合はこれらのアプリケーションとしては

が導入されています。実はこれらは他のエディションの場合でも導入すべき、非常に使いやすいソフトウェアです。 ただ、「軽量である」というのが常に好ましい条件であるとは限らないので、より高機能なアプリも導入しておくために選択する必要があるということです。

プログラムをすばやく起動する

方法としては2つあり、「検索型」と「コマンド実行型」です。

多くのデスクトップ環境ではAlt+F2によってコマンド実行に入ることができます。 ここでアプリのコマンド名を入力すれば起動できます。慣れてしまえばクリックするよりずっと速いです。

また、同様に多くのデスクトップではWindowsキー(Linux的に言うとSuperキー)を押すとメニューが開き、この状態から検索がかかるようになっています。 コマンド打ちが面倒なアプリや、コマンドがわからないアプリはこの方法で検索すると早く起動できます。

なお、KDEの場合、Alt+F2で起動する場合も、タイプこそ違いますが、検索型になっています。

ウィンドウの操作

タイリング

GNOME, Cinnamon, Plasma WorkspaceはWindowsキーとカーソルキーの組み合わせでウィンドウをタイルできるようになっています。

Windowsのウィンドウタイリングは左右の2方向ですが、Plasma Workspaceは上下左右の4方向、Cinnamonは8方向に対して可能です。 Cinnamonのウィンドウタイリングは現在の状態を基準にしてタイルするようになっています。

XFceにもウィンドウタイリング機能がありますが、標準で有効になっていないため、「ウィンドウマネージャ」の設定からキーボードのショートカットを設定する必要があります。

ウィンドウの移動

Linuxのデスクトップは一般的にAltキーを押しながらドラッグすることで、どの位置をつかんでもウィンドウを移動できます。

ただし、GNOMEではできません。

ウィンドウのリサイズ

Linuxデスクトップの一部はAltキーを押しながら右ドラッグすることでウィンドウをリサイズできます。 ウィンドウがはみでるサイズになってしまった場合に便利です。

よく聞くトラブルに備えて

現状、起きがちで、なおかつ難易度の高い問題として、「ファイルインデックスの暴走」というのがあります。

症状としては、ログイン後急激に重くなり、フリーズするというものです。

KDEが使用するBaloo File Extractorは暴走しがちです。 KDEをインストールしている場合、まずデスクトップにログインせず、ログイン画面でCtrl+Alt+F2を押してテキストログインします。

そしてログインしたら次のように入力します。

balooctl disable

Balooのキャッシュを削除するには次のようにします。

rm -rf ~/.local/share/baloo

再起動したら完了です。

GNOME系デスクトップで使われているTrackerも暴走する場合があるようです。 Trackerの場合も同様にテキストログインし、次のコマンドを入力します。

gsettings set org.freedesktop.Tracker.Miner.Files crawling-interval -2

Trackerのキャッシュを削除するには

tracker reset -r

とコマンドを実行します。こちらも再起動して完了です。

なお、Microsoft Officeのファイルがあると問題が発生するとの報告もあるので、そのようなフォルダに.trackerignoreというファイルを設置すると改善する可能性もあるようです。

もっと知りたいですか?

連載 初級Linuxリファレンスは初級Linuxerの方に向けた活用方法、テクニックなどを紹介しています。 これを読んだ後に読むにはレベルが離れすぎていますが、役に立つかもしれません。

Chienomiは私が書いているブログです。 このサイトに書かれているものと比べると格段にレベルの高い内容が揃っています。

Mimir Yokohamaの家庭教師サービスにおいて、Linux関連授業は人気です。 Linuxやコンピュータを理解し、問題解決能力を養うことを目標とする「Linux基礎初級」と、Linuxを一般ユーザーとして使うことに重点を置き、実際に使いながら慣れていき、より応用できるようにする「Linux実用初級」があります。

インストールそのものが難しいと感じる場合はマルチサポートサービスの活用も検討してみてください。

2020-04-29 追記: いただきましたご質問につきまして

Pinguino様より以下のようなご質問をいただきました。

Manjaro Linux(KDE)20.0 の初心者ですが、fcitx-mozc-neologd-ut+ut2のビルドに失敗します。 ソフトウェアの追加と削除からビルドしたところ以下のエラーがでました。

curl: (22) The requested URL returned error: 404 
==> エラー: https://osdn.net/frs/chamber_redir.php?m=ymu&f=%2Fusers%2F24%2F24574%2Fmozc-neologd-ut-2.23.2815.102.20191024.1.tar.xzのダウンロードに失敗 中止...
fcitx-mozc-neologd-ut+ut2 のビルドに失敗しました

ubuntuでは「https://ja.osdn.net/users/sicklylife/pf/mozc_ut_for_ubuntu/files/?id=26305」から最新版のパッケージをダウンロードして端末でビルドに成功してます。 Manjaroに移行して間もないのでどうすればよいのかわかりません。ご教授いただければ幸いです。 よろしくお願いします。

先に申し添えておきたいのですが、Mimir Yokohamaのコメント欄はあくまでメッセージを送るものであり、基本的に掲載はされません。ご質問される場合、ご連絡先の記載がありませんとご回答差し上げることができません。

なお、ご質問にご回答差し上げることをお約束するものではなく、確実な回答をお求めの場合、サポートサービスのご契約をご検討いただけますと幸いです。

さて、本件につきましては私がパッケージメンテナを務めますfcitx-mozc-neologd-utパッケージに関わるお話ですし、広く題材として取り扱えることからここで追記として回答いたします。

まず、いくつか常に心がけるべきことが2つあります。

Archwikiは他に類を見ない、極めて充実した情報を持つ公式Wikiです。 まずはAURを利用する前にArchwikiのAURのページを読みましょう

さて、エラーメッセージを読むと

curl: (22) The requested URL returned error: 404

とあります。つまり、curlが次に示されたHTTPSアドレスからのダウンロードを行おうとしたものの、404(NOT FOUND)によって失敗した、ということがわかります。 この場合、ダウンロードすべきリソースが存在していない状態ですから、どうすることもできません。何度やったとしても、必ず失敗します。

fcitx-mozc-neologd-ut+ut2のパッケージを見るとout-of-dateフラグが立てられていることがわかります。 out-of-dateフラグはメンテナンスされていない(推奨されていないバージョンのまま留められている、あるいはもはやビルドすることができない)パッケージに対して立てられるものです。

ソフトウェアの追加と削除」(ソフトウェア名: pamac GUI)から見ると、日本語では詳細の欄に

古くなっています: 2020年02月27日

と表示され、out-of-dateフラグが立てられていることが示されます。

OUT OF DATEになったパッケージ

TrizenやYayといったAURヘルパーを使用した場合、out-of-dateフラグはより強調されて表示されます。 このことから、fcitx-mozc-neologd-ut+ut2パッケージはビルドすることのできない、無効なAURパッケージであることがわかります。 AURからこのパッケージをビルドする方法はありません。

どうしても当該パッケージをビルドしたい場合、ご自身でビルド可能なPKGBUILDファイルをご用意の上、パッケージをビルドするのが唯一の方法です。

以下はより踏み込んだ解説となります。

fcitx-mozc-neologd-ut+ut2パッケージは私がメンテナンスするfcitx-mozc-neologd-utの派生パッケージです。 アップストリームの作者はutuhiroさんで、OSDNでホストされています。 (余談ですが、utuhiroさんはLinux界の日本語入力周りでは長く活躍されている方です)

OSDNではバージョンが更新された場合、古いバージョンのファイルは即時消えてしまいます。 ですから、アップストリームのファイルを参照する場合、アップストリームで更新されてから、AURでその更新を反映するまでの間はAURパッケージはビルドできない状態になります。

私は、なるべく迅速に変更を反映するようにしており、だいたいアップストリームが更新されて即日か翌日に更新することが多いです。ただし、常にそうであるわけではなく、遅れる場合もあります。

私の前にfcitx-mozc-neologd-utパッケージをメンテナンスされていた方は現在fcitx-mozc-ut2パッケージをメンテナンスされていますが、こちらは考え方が異なり、アップストリームのプロジェクトをforkし、ご自身のGitHubアカウントにファイルを置くことでリンク切れを避けるようになさっています。 これは純粋に考え方の違いであると言えるでしょう。

fcitx-mozc-neologd-ut+ut2パッケージは、fcitx-mozc-neologd-utパッケージからforkしたものですが、2019-10-11に作成されてから、2019-11-07に1度更新され、これ以降放置されています。 fcitx-mozc-neologd-ut側は2020-11-30に更新していますから、少なくともこの時には既にビルドできなくなっていたはずです。 out-of-dateフラグに対しても反応のない状態ですので、今後メンテナンスされることは期待しづらいでしょう。

さらに、fcitx-mozc-neologd-utパッケージに関しては、アップストリームで2020-01-14に非常に大きな変更が加えられており、さらに2020-01-15にはアップストリームが再度更新され、ベースソフトウェアであるmozc-neologd-utそのものが廃止となっています。 このことから、AURのfcitx-mozc-neologd-utパッケージのアップストリームソフトウェアは2020-01-15からmozcdic-neologd-utに変更されています。

このような変更があることから、fcitx-mozc-neologd-ut+ut2パッケージは単に現行のソフトウェアにリンクを変更すればビルドできるようなものではなく、ベースパッケージが根本的に変更されていますから、fcitx-mozc-neologd-ut+ut2のPKGBUILDの調整によってビルドすることはあまり良い考えであるとは言えません。

手元でビルドしたい場合のヒントとしては、fcitx-mozc-neologd-utパッケージにmozc-ut2のパッチを混ぜるのは、単純にfcitx-mozc-neologd-utパッケージのPKGBUILDを編集することで行えます。 そもそもfcitx-mozc-neologd-utパッケージそのものがPKGBUILDだけからなるものですので、

git clone https://aur.archlinux.org/fcitx-mozc-neologd-ut.git

とすることでPKGBUILDを取得することができます。これをUT2を含む形に編集すると良いでしょう。 その差はfcitx-mozc-neologd-utパッケージの旧バージョンのPKGBUILDと、fcitx-mozc-neologd-ut+ut2のPKGBUILDを比較することが参考になるかと思いますが、自己責任であること、ここに掲載して今後ずっと有効である方法が存在しないことからここには記載しません。(新たなOUT OF DATEな情報によって混乱を招いてしまいます)

また、ご自身がパッケージをメンテナンスする意思があるのであれば、fcitx-mozc-neologd-ut+ut2パッケージのメンテナに連絡を取り、パッケージを放棄してもらい、孤児パッケージを引き取ることで新しいメンテナに就任することができます。

もちろん、fcitx-mozc-neologd-ut+ut2パッケージではなく、私がメンテナンスするfcitx-mozc-neologd-utパッケージを利用するという方法もあります。 この場合、パッケージの問題 (AURの使い方など、不明点の質問ではなく、あくまでパッケージの問題です) は私に報告していただければ対応するようにします (これはMimir Yokohamaとしてサポートしているものではないため、私のTwitter, AURのページ, マシュマロなどからご連絡ください)。

さらなる理解として、fcitx-mozc-neologd-ut+ut2の素性を理解する必要があるでしょう。

まず、Mozcはよく知られているように、Chromebook向けの Google日本語入力のオープンソースバージョンです。

Mozc UTに使われているUT辞書は、Google/Yahooのヒット件数、Wikipedia、ニコニコ百科などの単語を元に構成されているものです。 このUT辞書は開発終了となっており、後継のUT2辞書があります。 これらの辞書をMozcの辞書として組み込んだのが、それぞれMozc UT及びMozc UT2になります。

Mozc NEologd UTは、mecab-ipadic-NEologd Neologisnという形態素解析エンジンの単語分かち書き用の辞書をMozc用に変換したものです。UTとついていますが、前述のUT辞書とは関係がありません。

なお、Mozc, Mozc UT, Mozc UT2はiBusが前提になっています。一方、Mozc NEologd UTはFcitxバインディングが標準です。

さて、Mozc UT, Mozc UT2, Mozc NEologd UTはいずれもutuhiroさんが開発している(いた)ソフトウェアです。 utuhiroさんは現在Arch Linux(というよりも、元Anterogos Linux)のユーザーであり、Arch Linuxのパッケージが基本です。実際、Arch Linuxではパッケージングしやすいように手元ビルド用のPKGBUILDが用意されています。

一方、fcitx-mozc-neologd-ut+ut2はutuhiroさんのMozc NEologd UT(Mozcコアのmozc-neologd-ut及びFcitxバインディングのfcitx-mozc-neologd-ut)をベースとしてMozc UT2のパッチを混ぜ込んだもので、Ubuntuにあるものがオリジナルです。 Ubuntuのパッケージには直接のアップストリームがなく、utuhiroさんの2つのソフトウェアをアップストリームとしています。

Ubuntuでは混ぜ込んだソフトウェアが配布されているのに対し、AURで配布されているのは混ぜ込み方を追記したPKGBUILDです。 これは、両者のパッケージの性質の違いによります。 Debianのパッケージはソースパッケージと言えどもパッケージを構成するものを包括するのが基本です。ですから、ソフトウェアそのものを必要とします。 一方、Arch LinuxのパッケージはPKGBUILDファイルそのものがパッケージの本体であり、PKGBUILDに「どうすればビルドするように必要なソースを揃えることができるか」「ソースを揃えたらどのようにしたらパッケージができるか」といった情報を記述します。このように、パッケージの実体がパッケージを構成するためのレシピになっている、という意味ではGentooのPortageや、FreeBSD Portsなどと同じような仕組みです。

AURのfcitx-mozc-neologd-ut/mozc-neologd-ut及びfcitx-mozc-ut2/mozc-ut2共にパッケージを構成するものはPKGBUILDファイルのみであり、両者を混ぜ込む方法を同様にPKGBUILDに追記することによりfcitx-mozc-neologd-ut+ut2パッケージを作ることができるわけです。


  1. 例えばアプリケーションにGNOMEアプリケーションではなく、X-Appsアプリケーションが採用されていたりします。↩︎

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